医薬品は有効性・安全性の確認のため、厚労省から製造販売承認を得るまで長期間かかります。一方で、特許の保護期間は出願から20年と決まっており、承認までの間特許製品を販売等することができないにもかかわらず、特許期間は経過していってしまっています。そこで、医薬品のように販売まで長期間を要する製品には、5年を上限として承認までにかかった期間を20年の保護期間から、さらに延長できる制度があります。
一方で、この特許権が延長された期間の間特許権の保護範囲がどうなるかは、特許法68条の2にあります。逆に言うと下記の条文しかなく、保護範囲の解釈をめぐっては専門家の間でも意見が分かれるところが多くあります。
(第67条第4項の規定により存続期間が延長された場合の特許権の効力)
平成29年には知的財産高等裁判所は承認された医薬品のみでなく、それと「実質同一」の範囲まで、保護期間が延長された特許の特許権の効力(保護範囲)が及ぶという判決を出しました。
しかし、"「実質同一」ってどこまでやねん?"という疑問が多くの人にでると思います。知的財産高等裁判所は上記の判決でいくつかの類型では例示を示しましたが、結局「実質同一」の範囲を巡って専門家の間で再び意見が分かれる事態となっているのが現状です。
さて、本日の本題ですが、東レは現在自身の持つレミッチという止痒剤の効能を保護する特許に基づいて、沢井製薬と訴訟を起こしてます。
そして、この”レミッチという止痒剤の効能を保護する特許”ですが、現在特許権の延長期間にある特許でして、まさに上記の効力(保護範囲)が一つの問題となる事例となっています(特許法上はその他の問題もあるのですが)。
上記の知的財産高等裁判所の判決の例示の類型では効能を保護する特許は類型として例示されなかったので、まずこちらの解釈が一つ興味深い点となっています。
他にも、知的財産高等裁判所は例示された類型で実施同一の判断基準として、『被疑侵害品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合』というものを挙げており、”ジェネリックメーカーが自身の製剤等で特許権を取った場合に、そのジェネリック製剤は実質同一に該当するのか”という論点も実はありました。
ここで、下記の無効審判を見てみると、ジェネリックメーカーである沢井製薬が自身の製剤で特許権を取っているのです! たまらず東レはこちらの特許を無効とする手続きをかけているのですが、この無効手続きの結果がどうなるのか? さらに、侵害訴訟での延長期間の間の特許権の効力(保護範囲)はどうなるのか?という点で面白い事例です。
口頭審理・証拠調べ・巡回審判期日 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)