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日本: 構成要件の一部が海外サーバーで実施される場合のシステム特許について大合議

 

昨日は、お待ちかねのドワンゴv.FC2大合議事件の判決言い渡し日でした。

令和3年特許法改正で導入された日本版アミカスブリーフ制度も利用された点でも注目された事件です。

 

www.patent-topics-explorer.com

 

 

結論としては、報道にあるようにドワンゴの請求を認め、FC2に対する侵害行為の差し止めと約1100万の損害賠償を認めたそうです。なお、FC2から事業の委託を受けるHPSの侵害は認められなかったようです。

 

www.yomiuri.co.jp

 

 

判決の全文はまだ掲載されませんが、要旨についてはこちらに掲載されました。

 

令和4年(ネ)第10046号 特許権侵害差止等請求控訴事件 判決要旨

https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/R4ne10046.pdf

 

デジタル化が進む中で海外サーバーの問題は年々大きくなっており、久しぶりに実務へのインパクトのある骨のある大合議判決が出ましたね!

 

 

まず、システムクレームの侵害の一態様である「生産」について、下記のように定義づけています。

 

単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有するようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解される。

 

 

興味深いのは、被告の行為を、被告のシステムを「新たに作り出す行為」を認定し、そのうえで上記「新たに作り出す行為」を本件特許システムの「生産」に該当するか当てはめを行っています。

 

 

あてはめにおいて、海外サーバーで一部行為が行われていることから属地主義の観点から日本の特許権の効力が及ぶのかを問題としていますが、以下のように要旨ではまとめられています(赤太字は筆者が追加)。

 

ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(国外)に設置されることは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構成する端末が日本国内(国内)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。


そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。


他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。


これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。

 

 

そのうえで、「当該行為の具体的態様」について下記のように認定し、

これを本件生産1の1についてみると、本件生産1の1の具体的態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末に各ファイルが送信され、国内のユーザ端末がこれらを受信することによって行われるものであって、当該送信及び受信(送受信)は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システム1が完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観念することができる

 

当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割」について下記のように認定し、

次に、被告システム1は、米国に存在する被控訴人Y1のサーバと国内に存在するユーザ端末とから構成されるものであるところ、国内に存在する上記ユーザ端末は、本件発明1の主要な機能である動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能を果たしている

 

当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所」と「その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響」について下記のように認定し、

さらに、被告システム1は、上記ユーザ端末を介して国内から利用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という本件発明1の効果は国内で発現しており、また、その国内における利用は、控訴人が本件発明1に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得るものである。

 

これらを総合考慮の結果、下記のように「生産」に該当するものと認められると判断されています。

以上の事情を総合考慮すると、本件生産1の1は、我が国の領域内で行われたものとみることができるから、本件発明1との関係で、特許法2条3項1号の「生産」に該当するものと認められる。 

 

要旨では主体の判断についても記載されていますが、誰が直接侵害を構成するかという意味で重要であり、興味深いところです。あとは判決自体がシステムの生産と繰り返し述べているので、今回の規範がシステムクレーム以外でどこまで及びうるかというのもポイントかもしれません。

 

 

知財高裁は装置クレーム/プログラムクレームの前訴判決や、システムクレームの今回の大合議判決の何れにおいても、海外サーバーで一部行為が実施されていたとしても侵害と認められる場合がある判示をしました。上告などがされるかはわかりませんが、デジタル化が進む中で重要な判決になりえますので、今後も目が離せないですね。