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知財高裁による美容医療特許の侵害訴訟事件に関する意見募集

 

美容医療に関連する特許についての損害賠償請求事件で、知財高裁が第三者の意見募集を開始しています(令和5年(ネ)第10040号)。意見募集期間は、2024年9月6日までとなっており、間もなくです。

https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2024/boshuuyoukou.pdf

 

 

事例としては、地裁判決そのままで知財高裁は余り踏み込まず、クレーム文言非侵害でもいいのではないかという気はしています。

 

一方で、実務的には今回のような組成物クレームで併用までカバーするのは現在難しい状況です。「医薬品Aを併用するための、医薬品Bを含有する〇〇治療薬」というような用途型のクレームも少なくとも併記する方がよいのかなと思われます。

 

逆にいえばクレームドラフティングの問題ともいえ、法的安定性を曲げてまで救済する理由も見当たらない気もします。むしろ、プロダクト・バイ・プロセスクレームの時のように、今回の組成物クレームは併用を保護する形式としては妥当でないと引導を渡し、併用を保護する際にとるべきクレーム形式を裁判所が示唆する方が、ずっと良いのではないかと思われる事件でもあります(プロダクト・バイ・プロセスクレームの時のように、訂正審判等による一定の救済措置が別途組まれるように持っていくとより良いと思われる)。

 

以下それぞれの質問と簡単な感想です(何かこうだというものがあるわけではない)。

 

 

(1) 本件特許は、「産業上利用することができない発明」(特許法29条1 項柱書)についてされたものとして、特許無効審判により無効とされるべきものか。

 

「物の発明」であり、現在の運用、物質特許導入時に医薬自体の発明は権利制限規定が不要とされた経緯(特許・商標制度改正の要点, 発明協会, 1975)、医薬特許は医療行為そのもの特許と異なり医療行為の妨げとならないとした過去の裁判例(平成12(行ケ)65)なども考えると、無効とすべきでないと思われる。

 

 

(2)本件発明は、「二以上の医薬(人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物をいう。以下この項において同じ。)を混合することにより製造されるべき医薬の発明」(特許法69条3項)に当たるか。

 

条文の文言上、医薬は人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物という定義がおかれており、美容医療は該当しない可能性が高い。

 

ここで、本定義は昭和34年改正の不特許事由の医薬の定義がそのまま踏襲されており、昭和34年改正時の趣旨は動物用医薬品を除くことであったことがうかがわれる(新工業所有権法逐条解説, 発明協会, 1959)。

 

一方、戦前の大審院判例では「医行為」について、人の疾病を診察治療する行為と解しており(医事法判例百選[第3版],「1「医業」の意義」、「醫(医)行為スト謂フハ疾病ノ治療ノ目的ヲ以テ診察投薬等ノ行為ヲ為スコトニ在リ」大判昭和9.10.13)、当時は人の疾病の限定が付くという意味で旧特許法32条2号の医薬と医行為の定義は対応するものだったように思える。

 

しかし、戦後、保健衛生上の危険性を基準に医行為性を判断する立場が通説となっているため(医事法判例百選[第3版] , 「1「医業」の意義」)、「医行為」の解釈の変化に応じて「医薬」も柔軟に解釈する余地はあるかなと思われる。

 

 

(3)(ア)医師である医師である被控訴人が、本件医院において、手術に用いるために、上記①ないし③を全て混ぜ合わせた薬剤(以下「本件混合薬剤」)を、処方せんを発行することなく看護師又は准看護師に指示して製造する行為は、「医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する行為」(特許法69条3項)に当たるか。

 

文言上当たらないのは明らかかと思われる。医療補助者の調剤について、医療補助者が正規な処方せんに基づき調剤していれば薬事法上違法性をはらんでいても69条3項は及ぶという考え方はあるものの(新・注解 特許法〔第2版〕中巻)、処方せんがないような場合まで救済すべき根拠は今のところ見つかっていない(探せばあるかも?)。立法過程で調剤行為と製薬行為の線引きは問題となっていたように思われるので、処方せんの有無は当時の一つの線引きだったのかなと思われた。

 

 

(3)(イ)医師である被控訴人が本件混合薬剤を製造する行為は、医療行為に密接に関連する行為であるところ、何らかの理由により、本件特許権の効力が及ばないといえるか。 

 

医師が自らの処方せんによる自己調剤(もちろん混合の範囲であることが条件だが)は立法過程などをみると69条3項に入ると思われた。処方せんを出していない場合に69条3項の適用があるか判断が難しい。69条3項の適用がない場合、医療行為に対する権利行使について権利濫用なども考えられるが、例外規定が及ばなかった行為にさらに医療行為として一律に権利行使を制限するのもどうかと思われる。一方で、無限に69条3項の効力が広がるのも問題......

 

何れにしても「川下規制を置くと例外規定の範囲外となった場合権利行使されるんですね」という議論に行きつく可能性があり、例外規定を置くインセンティブを一気に下げる可能性があるので(29条1項柱書違反で特許を絶対的に無効にできるカードを持ってた方が有利だよねという議論に傾く)、個人的には地裁判決のままにして判断しなくてもよいのではという論点。

 

 

(3)(ウ)医師である被控訴人が、本件医院において、上記①及び②を含む薬剤と、上記③を含む薬剤とを別々に手術に用い、被施術者の体内において①ないし③が混ざり合うとき、被控訴人による手術は、本件発明に係る「組成物」の「生産」に当たるか。

 

本件では、いずれの状況でも、混合物として区別される組成物が観念できないのであたらないと思われる。

 

仮に組成物が体内でできていたとしても、結果物(侵害物品)が体内にしかないというのは、何とも言えない違和感はあり(人体に特許権の効力が及ぶ? さらに、体内で仮に生産されているとすると同時に医療効果も発揮されてしまっており医療行為との区別があやしい気もする)。

 

『「物の生産」は,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいう。すなわち,加工,修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であって,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれない。』(平成23年(ワ)第7576号, 同第7578号)を持ち出す場合も、処方に至るまでに何らかの手を加えていた場合の方が生産と判断されやすいのかなと思われた。