大合議判決の全文が先週出ました。損害賠償の黒塗りとかあって時間かかるかもなと思っていましたが、全文出るの早かったですね。
前回にも書きましたが、要旨を読んだ時点で自分が疑問に思っていたのは、下記でした。
(1) 事実認定の部分がどうなっているのか
(2) 69条3項の適用と医薬の意味
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全文を見ての感想を以下に書いていこうと思います。
(1) 事実認定の部分がどうなっているのかについては、判決文を読むと事実認定で片がついていたようです。とはいえ、当初の第三者意見募集では法律の適用の問題が残っているかのような書きぶりでしたので、意見募集が早すぎたのではという気はします。
意見募集に回答するため、いろんな団体の皆様が喧々諤々の意見を交わしたのだと思います。この併用の問題は日本全体で回答提出するために相当な労力が消費されたはずです。事実認定で論点にすらならないのであれば、意見募集をしなくてもよかったのかもしれません。
(2) 69条3項の適用と医薬の意味については、
要旨を見る限り、美容医療は医薬にあたらない(本件特許発明に係る組成物は、明細書等の記載からして、豊胸のために使用するものであり、その目的は主として審美にあるとされている。その上、現在の社会通念に照らしてみても、本件特許発明に係る組成物は、「人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物」と認めることはできない。 )と一蹴された。
一方で、産業上の利用可能性の論点において、本特許が有効である理由では、「昭和50年の特許法改正により、医薬の発明が特許を受けられることが明確にされたこと」が一つの理由として挙げられている。
論点は違うが、69条3項で医薬にあたらない美容医療の発明が、29条1項柱書の産業上の利用可能性が認められる理由において医薬の発明が過去の改正で認められたことが理由に上がっていることは、判決全文でどのような内容になっているか気になる。
と要旨を見た時点では書いていました。
判決ですが、本件特許が29条柱書に違反しない理由として、医薬の発明が物質特許として認められた経緯を挙げています。
昭和50年法律第46号による改正前の法は、「医薬(人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物をいう。以下同じ。)又は二以上の医薬を混合して一の医薬を製造する方法の発明」を、特許を受けることができない発明としていたが(同改正前の法32条2号)、同改正においてこの規定は削除され、人体に投与することが予定されている医薬の発明であっても特許を受け得ることが明確にされたというべきである。
69条3項については、本件特許は審美目的のものであり、医薬に該当しないとしています。
法69条3項は、「二以上の医薬(人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物をいう。以下この項において同じ。)を混合することにより製造されるべき医薬の発明」を対象とするところ、本件発明に係る組成物は、特許請求の範囲の記載からも明らかなとおり「豊胸のために使用する」ものであって、その豊胸の目的は、本件明細書等の段落【0003】に「女性にとって、容姿の美容の目的で、豊かな乳房を保つことの要望が大きく、そのための豊胸手術は、古くから種々行われてきた。」と記載されているように、主として審美にあるとされている。このような本件明細書等の記載のほか、現在の社会通念に照らしてみても、本件発明に係る組成物は、人の病気の診断、治療、処置又は予防のいずれかを目的とする物と認めることはできない。
29条柱書の「医薬」と69条3項の「医薬」の意味がそもそも違うという説明はありますが、同じ特許で何故29条柱書では医薬であることが理由の一つとされ、69条3項では医薬であることが否定されたのかは理解がまだ追いついてません。
特許法における「医薬」の意味については、また別の機会になるかもしれませんが、争われる余地はあるのかもしれないとも思われました。