2025年6月に特許庁が「AI関連発明の出願動向調査(国際編)」を公開しました。しかし、その内容は世界のAI開発が完全に「米中二強時代」に突入したこと、そして日本がその激しい競争の舞台から大きく取り残されているという厳しい現実を、残酷なまでに明確な数字で突きつけています。
AI関連発明の出願状況調査(国際編)
近年出願が急増しているAI関連の特許出願に関し、従前調査していた国内における出願状況に加え、日本含む国際的な出願状況調査を実施しました。調査結果の概要は以下でご覧いただけます。(令和7年6月公表)
報告書が物語る「桁違い」の差:米は日本の5倍、中は米の8.5倍
まず、AI技術全体の基盤となる「AIコア」分野における2015年以降の特許ファミリー(特許の集合体)の出願数を見てみます。その差は、もはや「差」という言葉では生ぬるいほどの「桁違い」です。
- 中国: 440,000件くらい
- 米国: 52,000件くらい
- 日本: 10,000件くらい
米国は日本の5倍以上、そして中国は米国のさらに8.5倍という、圧倒的な差があります 。この数字だけでも、日本がAI開発競争のトップ集団からいかに引き離されているかが分かります。
この傾向はAIの重要分野である「ニューラルネットワーク」でも同様で、米中がそれぞれ約2万件前後の出願数を誇るのに対し、日本はその5分の1以下に留まっています 。
権利者ランキングからも姿を消す日本
10年前(2015-2019年)のAIコア分野の権利者ランキングでは、IBM、Microsoft、Googleといった米国企業がトップ層を占めていました 。しかし、直近5年間(2020-2024年)では、TencentやSTATE GRID(国家電網)を筆頭とする中国勢が完全に上位を独占し、米国勢は後退を余儀なくされています 。かつてランクインしていたNECや富士通といった日本企業は、近年その姿を消してしまっていることが読みとれます。
AIも日本はガラパゴス化しているのか?
AIも日本はガラパゴス化していまうのではというトレンドも報告書の内容から危惧されます。
映像(動画)ではなく「画像」にこだわる日本?
報告書では、世界のAI開発のトレンドが、静的な「画像」から動的な「映像(動画)」の認識・処理へと大きくシフトしていることが示唆されています 。一方、報告書は、日本が「画像→映像の潮流に逆らうように画像処理の割合を維持している」と指摘しています 。これは、世界市場の大きな流れに乗るのではなく、自らの得意な領域に留まることを選んでいる可能性があります。
グローバルな応用トレンドから乖離する日本
自然言語処理の分野を見ると、米国はSNS解析 、韓国は音声合成・AIアシスタント といった、グローバルに展開可能なアプリケーションへの応用が進んでいるように思われます。一方で、日本の特許出願は「医学レポートICT」や「2D画像生成」が上位を占め、他国とは全く異なる様相を呈しています 。これもまた、国内の特定ニーズに最適化された、いわゆるガラパゴス化リスクともいえます。
ニッチな特化か?ガラパゴス化か?
一方で、ある意味で米中といった巨人に勝つためのニッチ化戦略ともいえ、これも日本が生き残る道なのかもしれません、しかし、労働人口の落ちる日本ではAI技術は必須ともいえる技術であり、世界のトレンドでもリードはしてほしいなとは思います。今後の日本のAIの特許出願トレンドも見守っていきたいと思います。