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欧州: EPOとUPCの調和へ大きな一歩。G1/24審決が示すクレーム解釈の基本原則!

 

クレーム解釈時の明細書参酌についての拡大審判部の審決G1/24が出ました。

https://link.epo.org/web/case-law-appeals/Communications/G_1_24_Decision_of_the_Enlarged_Board_of_Appeal_of_18_June_2025.pdf

 

 

今回拡大審判部に付託された質問は以下です。結果として、質問1と2について回答されました。

 

 

質問1: EPC第69条(1)第2文およびEPC第69条の解釈に関する議定書第1条は、EPC第52条から第57条に基づく発明の特許性を評価する際に、特許クレームの解釈に適用されるべきか?

 

質問2: 特許性を評価するためにクレームを解釈する際に、明細書および図面を参照できるか、もしそうであれば、それは一般的に可能か、それとも当業者がクレームを単独で読んだときに不明瞭または曖昧であると判断した場合に限られるのか?

 

質問3: 特許性を評価するためにクレームを解釈する際に、クレームで使用されている用語について明細書に明示的に記載されている定義または類似の情報を無視できるか、もしそうであれば、どのような条件下でか?

 

 

 

クレーム解釈の根拠となる条文 (質問1)

 

まず質問1について、拡大審判部は、EPC第69条および同条の議定書も、EPC第84条も、特許性評価におけるクレーム解釈の根拠として完全に満足のいくものではないと判断しました。

 

一方で、明確な法的根拠となる条文がないからとって、新たなクレーム解釈の方法を作り出す必要はなないともしています。

 

これまでの審判部の判例法(EPC第69条または第84条のいずれを根拠としても、適用される原則に影響はないとされている判例法)から、適用可能なクレーム解釈の原則を導き出すことができるとしています。

 

 

クレーム解釈の方法はどのようにされるべきか (質問2)

 

拡大審判部は、特許性の判断においてクレームを解釈する際には、以下の原則が適用されるべきであると示しました。

 

1.クレームは、EPC第52条から第57条に基づき発明の特許性を判断するための出発点であり基礎となる。

2.クレームを解釈する際には、不明瞭または曖昧な場合に限らず、明細書および図面が常に参照される。

 

 

欧州統一特許裁判所(UPC)では、NanoString Technologies 対 10x Genomics事件において、クレーム解釈では常に明細書を参酌するという判断がされており、UPCの解釈に合わせてきたとも言えます。

 

実際に、拡大審判部は、「欧州特許庁EPO)が、その特許の下流にある裁判所(EPC加盟国の国内裁判所やUPCなど)とは正反対の実務を意図的に採用することは、最も魅力のない提案である」という見解を示しており、UPCを含む各国の裁判所との調和を重視していることが読み取れます

 

 

今後の注目点

 

EPOのクレーム解釈とUPCのクレーム解釈の基本原則が調和されたことは大きな進歩だと思われます。一方で、この原則が個々の事例にあてはめれられた際に、EPOUPCで実際にどの程度調和した解釈がされていくか、今後は具体的な事例をみていくことも大事ですね!