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米国:広すぎた差止命令は無効!デラウェア裁判所が示した「差し止め」の限界

 

この訴訟は、2つの製薬会社、Jazz社(特許を持っている側)とAvadel社(競合する新薬を出したい側)の間で起きました。

 

Jazz社は、自分たちの薬の特許(’782特許)が切れる前に、Avadel社がLUMRYZという競合薬を、ある特定の病気(特発性過眠症、略してIH)の治療薬として市場に出すのを阻止したいと考えました。

 

Jazz社が裁判所に求めたのは、「Avadel社がIHに関する医薬品の製造販売承認申請を行うことを差止めてほしい」ということでした。

 

なぜ「承認申請」を止めるのが問題になったのか?

 

問題は、「FDAに医薬品の製造販売承認を申請する行為自体」が、特許を侵害しているかどうか、という点でした。

 

以前の裁判所の命令が「広すぎた」デラウェア州地方裁判所は、以前、Avadel社の治験やFDA承認の取得全てを禁止しましたが、控訴審である連邦巡回控訴裁判所は「その命令はやりすぎ(overbroad)だ」として、判断をやり直すよう差し戻しました。

 

「申請」は「侵害」ではない?連邦巡回控訴裁判所は、FDAへの申請の提出は特許侵害行為であると指摘しましたが、驚くべきことに、差し戻し審では両社(Jazz社とAvadel社)が、「IHに関するFDA承認の申請活動自体は特許侵害行為ではない」という点で合意しました。

 

裁判所が出した2つの重要な結論

 

裁判所は、Jazz社からの再度の差し止め命令の申し立てを却下しました。その理由として、主に以下の2点を挙げました。

 

結論①:特許を侵害する行為でない &「合法的な競争」は止められない

 

裁判所は、まず「両当事者が特許侵害ではないと認めた活動」を差し止められるのか、という根本的な問題に取り組みました。

 

まず、裁判所は、連邦巡回控訴裁判所判例(Joys Techs.事件)を引用し、「合法的な競争活動に対する司法の制限は避けなければならない」という考え方を強調しました。

 

そして、「特許を非侵害行為は差し止められない」と結論付けました。つまり、特許侵害に直結しない活動を、将来の競争の恐れだけで止めることはできない、ということです。

 

結論②:Jazz社の「損害」の主張は証明されていない(「eBayの4要素」の評価)

 

米国で、差し止め命令を出すには、特許権者が「このままではお金では解決できない、取り返しのつかない損害を被る」ことを証明する必要があります(これを「eBayの4要素」による検証といいます)。

 

1. 損害は「推測」に過ぎない: Jazz社は、Avadel社が承認を得れば、市場シェアの損失や価格競争などが「必ず」発生すると主張しました。しかし裁判所は、Avadel社のIHに関する臨床試験が失敗する可能性や、FDAが承認を与えない可能性もあるため、Jazz社の損害は「単なる推測(speculative)」であり、証明できていないと判断しました。

 

2. 競合他社が予防策を講じている: Avadel社は、薬が特許侵害となる使い方(IH用途)で処方されるのを防ぐため、専門薬局と連携し、処方を拒否するなどの予防的な措置をすでに講じている点を裁判所は評価しました。これにより、非侵害活動を差し止める緊急性は薄れたとされました。

 

3. 公共の利益: 裁判所は、LUMRYZがIHの患者に対して「潜在的により優れた治療法を提供する」可能性があるというAvadel社の主張を重視しました。新しい適応症の承認を求める行為を阻止する命令は、公共の利益に反すると判断されました。

 

4. まとめ

デラウェア州地方裁判所は、これらの理由に基づき、Jazz社による恒久的な差し止め命令の申し立てを却下しました。

 

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