ドイツでは、特許が侵害と認められるとほぼ差止めが認められるいわゆるautomatic injunctionが問題とする声があります。
そのような声をうけてか、2021年に下記の差止め制限が導入されています。
2. 差止による救済規定の明確化(2021 年 8 月 18 日施行)
特許法第 139 条(1)(特許権侵害に対する差止請求権の規定)に、個別の事案の特段の事情及び信義則の要件により、排他的権利が正当化されない、侵害者又は第三者にとって不相応な困難が生ずる場合に限り、差止請求が排除される旨、また、そのような場合には被侵害者は相当の金銭的補償を受けなければならない、また、このことが同条(2)の損害賠償請求権には影響を及ぼさない旨を追加。https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2021/20210817.pdf
一方で、この制限は今までのドイツのプラクティスを明文化しただけという意見もあり、その実効性を疑問視する声もありました。
今回デュッセルドルフ地裁で、こちらの条項を巡った初めての判断があったそうです。
まず当事者は、Gilead社とNuCana社です。
Gilead社のsofosbuvirというC型肝炎薬が、NuCana社の下記EP2955190B1を侵害しうることから生じた事件のようです。
また、NuCana社自体はEP2955190B1の権利範囲に含まれる医薬を販売してはいなかったそうです。
特に興味深いのは、Gilead社がNuCana社特許の差し止め請求の制限を求めた部分です。
一方、結論としては、Gilead社の差止め制限の請求をデュッセルドルフ地裁は棄却したようです。
棄却の理由としては大きく以下の2つがあるようです。
(1)Gilead社が速やかに強制実施権の請求を求めなかったため
(2)Gilead社がライセンス取得のための十分な交渉のステップを踏んでいなかったため
また第一審の判断であるので、今後の控訴審などがある場合はその動向がきになりますね。