1. 背景情報
米国においては、ある文献等が実際は先行文献とならなくても、特許の明細書の中や出願人の陳述の中で自認したものにはついては、Applicant Admitted Prior Art (AAPA)として先行文献とみなされ、新規性や進歩性といった無効理由に用いることができます。
さて、米国特許庁ではIPRという無効手続きがありますが、この手続きでApplicant Admitted Prior Art (AAPA)が使えるかは、以前は審判部によって分かれていました。
そこで、米国特許庁はメモランダムを出し、IPR では、Applicant Admitted Prior Art (AAPA)のみを無効の根拠とすることはできないが、先行特許または印刷刊行物との組み合わせることで、Applicant Admitted Prior Art (AAPA)を使用することができるとしていました。
“Treatment of Statements of the Applicant in the Challenged Patent in Inter Partes Reviews Under § 311(b)” (USPTO Guidance)
https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/signed_aapa_guidance_memo.pdf
今回の事件では、このようなAAPAの取り扱いについて米国の控訴審であるCAFCで争われた事件です。
2. 今回の事件(Qualcomm Inc. v. Apple Inc., No. 20-1558 (Fed. Cir. 2022).)
この事件は、米国特許庁の審判部PTABの無効手続きIPRの決定に不服とするQualcommがCAFCに控訴した事件です。
米国特許庁の審判部PTABは、上記のガイドラインに基づき、先行特許または印刷刊行物との組み合わせることで、Applicant Admitted Prior Art (AAPA)を使用し、特許を無効と判断しました。
結論として、CAFCはApplicant Admitted Prior Art (AAPA)はIPRにおける先行技術とは認められないと判断しました。
Qualcomm Inc. v. Apple Inc., No. 20-1558 (Fed. Cir. 2022).
https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/20-1558.OPINION.2-1-2022_1901450.pdf
今回の判決から、Applicant Admitted Prior Art (AAPA)は米国特許庁のガイダンスに従い他の先行文献と組み合わせて用いても、先行文献として扱われえない可能性があります。
一方で、例えば、CAFCは下記の判決でApplicant Admitted Prior Art (AAPA)は当業者の技術常識を示すために用いることができるとしています。
Koninklijke Philips N.V. v. Google LLC, et al., No. 2019-1177 (Fed. Cir. Jan. 30, 2020)
https://cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/19-1177.Opinion.1-30-2020_1524001.pdf
結局はある程度主張の戦略により対応できそうな印象ですが、Applicant Admitted Prior Art (AAPA)を主引例として用いるような主張は避けた方がよいのですかねぇ。今後の判決の動向も見ていく必要がありそうですね。