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日本: 【速報】DABUS案件の日本での行政不服審査会の答申がでる

 

DABUSというAIが単独で発明者になれるかという案件が各国で争われていることを投稿していました。

 

www.patent-topics-explorer.com

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日本においては出願されていることは確認されているものの、今回の事項は方式マターであり、出願公開がされないため、実際にどのように審査が進んでいるか公開されず状況がわかないということが続いておりました。

 

 

今回の審査会の答申から、日本では下記の経緯をたどっていたようです。

 

令和2年8月5日:
特許出願人が、特許庁に対し、国内書面等の提出手続をした。本件国内書面の【発明者】の【氏名】欄には「E、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載されていた。

令和3年7月30日:
特許庁が、特許出願人に対し、①本件国内書面の【発明者】の【氏名】欄に自然人でない者が記載されている、等を指摘し、手続補正指令を出した。

令和3年9月30日:
特許出願人が、特許庁に対し、発明者の表示として人工知能を記載したことに関する本件補正指令書には法的根拠がなく補正による応答は不要であり、本件補正指令書を撤回し、実体的な審査に進むよう求める旨記載した上申書を提出した。

令和3年10月13日:
特許庁が、審査請求人に対し、指定した期間内に本件国内書面の【発明者】の【氏名】欄の記載の不備についての補正がされていないとして、出願却下処分をした。

令和4年1月17日:
特許出願人が、審査庁に対し、本件却下処分を不服として行政不服審査法における審査請求をした。

令和4年8月10日:
特許庁が、行政不服審査会に対し、本件審査請求は棄却すべきであるとして諮問をした。

令和4年9月12日:
行政不服審査会の答申が出る。

 

 

 

行政不服審査会の答申の結論としては、DABUSというAIを発明者として記載することは方式違反であるという特許庁の判断を是認しました。いろいろと理由は書かれていますが、下記に凝縮されているかなという気がします。

 

「発明者」は、発明という事実行為を行った者で、発明の完成と同時に特許を受ける権利の帰属主体となるものであるから、自然人に限られると解さざるを得ない。

 

 

今後は行政不服審査の裁決へと進んでいくものと思われます。

 

 

 

余談ですが、米国CAFCの裁判官も口頭審理で指摘していましたが、AIはソフトウェアであり無体物であるので、そういった意味で何をもってそれぞれのAIを識別するかは中々難しい気もしています。

 

...人工知能が「物」(民法85条)であるのかという点をさておくとしても、...

 

 

下記は行政不服審査会の判断の抜粋です。

 

第3 当審査会の判断
  当審査会は、令和4年8月10日、審査庁から諮問を受け、同年9月1日及び同月8日の計2回、調査審議をした。
1 本件諮問に至るまでの一連の手続について
  本件審査請求から本件諮問に至るまでの一連の手続について、特段違法又は不当と認めるべき点はうかがわれない。
2 本件却下処分の適法性及び妥当性について
(1)発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項)、事実行為である。
そして、特許法上、産業上利用することができる発明をした者は、特許出願前に公然知られた発明等を除き、その発明について特許を受けることができ(29条1項)、特許を受ける権利は、移転することができるが(33条1項)、特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができない(34条1項)。特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないときは、特許出願について拒絶の査定がされ(49条7号)、たとえ登録されても無効理由となる(123条1項6号)。これらの規定によれば、特許を受ける権利は、発明の完成と同時に発明者に原始的に帰属し、特許を受けることができるのは、発明者及びその承継人に限られると解するのが相当である。
そうすると、「発明者」は、発明という事実行為を行った者で、発明の完成と同時に特許を受ける権利の帰属主体となるものであるから、自然人に限られると解さざるを得ない。
なお、願書や国内書面の記載事項として、出願人については「氏名又は名称」と自然人と共に法人が出願人となることを前提とした規定となっている(特許法36条1項1号、184条の5第1項1号)一方、発明者については「氏名」のみが規定され(同法36条1項2号、184条の5第1項2号)、自然人のみを前提としていることも、上記の解釈と整合的である。
(2)次に、審査請求人の主張を検討すると、以下のとおり、いずれも採用することはできない。
   ア 審査請求人は、特許法35条3項を根拠に挙げつつ、発明者は特許を受ける権利を発明の完成と同時に有する主体であるとの解釈は当然のものとはいえないと主張する。
しかし、上記(1)のとおり、特許法29条1項、33条1項及び34条1項等の規定を考慮すれば、発明の完成と同時に発明者に特許を受ける権利が帰属すると解さざるを得ない。そして、その例外として、特許法35条3項は、契約等であらかじめ定めた場合に限り、特許を受ける権利が発生した時(従業者等が職務発明をした瞬間)からその特許を受ける権利が使用者等に帰属することを認めるものであって、この規定の存在をもってする審査請求人の主張は採用することはできない。
   イ 審査請求人は、処分庁の法解釈は、人工知能が発明者となる可能性が生じる以前の解釈であり、当該可能性が生じた現在、人工知能が発明者となり、人工知能からその管理者への特許を受ける権利の承継が成立すると解すべきなどと主張する。
しかし、人工知能には権利能力がなく、権利の帰属主体となり得ないのであるから、人工知能からその管理者への権利の承継はそもそも観念することができない。そして、現行の特許法の発明者等に関する関係規定の理解は、上記(1)のとおりであり、特許法の体系的な見直しなくして、審査請求人の主張を認める余地はないといわざるを得ない。
   ウ 審査請求人は、民法88条、89条及び206条の規定により、移転又は承継という行為を経ずとも、発明がされたときから本件国際特許出願の発明者である人工知能の所有者に特許を受ける権利が帰属しているとも理解できると主張する。
しかし、人工知能が「物」(民法85条)であるのかという点をさておくとしても、やはり、発明者に特許を受ける権利が帰属するという現行の特許法の仕組みに反する解釈といわざるを得ない。
(3)上記(1)及び(2)の検討結果からすると、上記第1の2(2)のとおり、本件国内書面には、【発明者】の【氏名】欄に「E、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載されているのみであり、発明をした自然人の氏名が記載されていないのであるから、特許法184条の5第1項2号に規定する「発明者の氏名」が記載されていないこととなり、同項各号に掲げる事項の記載を求める特許法施行規則38条の5第1号の方式に違反することとなる。
そして、審査請求人は、処分庁から、本件補正指令によりその補正を命じられたにもかかわらず、指定された期間内にその補正をしなかった。
したがって、本件却下処分に違法又は不当な点は認められない。
3 まとめ
以上によれば、本件審査請求は理由がないから棄却すべきであるとの諮問に係る審査庁の判断は、妥当である。
よって、結論記載のとおり答申する。

令和4年度諮問第38号より抜粋