大学がで生まれた発明で問題になるものとして、博士課程などに所属する学生が発明を生んだ場合です。
というのも、学生は大学が雇用しているわけではないため、大学に特許の所有権を移すには、教授などのように雇用されているものと異なる対応が必要になる場合があります。
今回英国高裁が、この問題について判断を下したそうなので、メモ!
Oxford University Innovation Ltd v Oxford Nanoimaging Ltd [2022] EWHC 3200 (Pat) (23 December 2022)
https://www.bailii.org/ew/cases/EWHC/Patents/2022/3200.html
事件の背景
事案としては、インターンおよび博士課程でOxford大学に所属した研究者がその過程で生まれた発明に基づき、スタートアップを設立したそうです。発明の特許についてはOxford大学に移転され、当該スタートアップはライセンスを、Oxford大学にライセンス料を払うスキームとなっていたようです。
しかし、研究者の所属するスタートアップが消費者法に基づきOxford大学への移転は無効として、ロイヤリティの支払いを拒否したことから事件が始まったということです。
University research students who owns the IP - Bird & Bird (twobirds.com)
博士課程で生まれた発明の所有権はどうなるか?
法律的に興味がある論点は、博士課程の中で生まれた発明(特許を受ける権利)の所有権の行方です。
特に今回は、学生が「Consumer」にあたるか議論されており、「Consumer」に当たると英国の消費者保護の法律の適用がありうるため、学生と大学間の契約の有効性にあたり「unfair」な条件でなかったが有効性に影響を与えることになるそうです。
まず、英国高裁ですが、博士課程の学生を「Consumer」であると判断しました。従って、契約の有効性の判断には消費者保護の法律の修正が考慮されることになります。
一方で、契約条項には著しい不均衡はなかったため、「unfair」な条件でなく、学生から大学に発明(特許を受ける権利)を移転した契約は有効と判断したそうです。
大学技術移転機関とスタートアップ
ところで、研究者側の主張がFinancial Timesに載っています。大学の技術移転機関が利益を追求することで、スタートアップ育成の邪魔をしているという主張もなされています。
The growing tensions around spinouts at British universities (Financial Times, JANUARY 30 2023)
https://www.ft.com/content/a2cb4877-c50e-4353-a697-cd5343eaae2d
スタートアップエコシステムの形成がなされるにあたり、海外では大学とスタートアップの間での軋轢も、少なからず見えてきているのかもしれません。
このような事態を反映してか、Web3の世界では、大学技術移転機関はイノベーションを阻害するものとして、Decentralized Tecnical Tranfer Officeという、大学の管理を離れてブロックチェーンの非中央集権的コミュニティの中で技術移転機関を作ろうとする動きも生じています(Decentralized Technology Transfer: A Modern Framework to Empower Scientific Innovation (vitadao.com))。
大学技術移転機関が、スタートアップエコシステムに関わるあたり、利益の追求だけをせず、スタートアップ育成にあたりどのような役割を持っていくかも今後問われる時代が来るかもしれないですね。