今回は、生命科学やAI分野に大きな影響を与えてきたタンパク質構造予測の国際コンテスト「CASP」が資金難で消滅の危機という記事を紹介したいと思います!
Exclusive: Famed protein structure competition nears end as NIH grant money runs out (2 Jul 2025, Science)
CASPとは?
CASPは、1994年に始まった国際的な科学コンペティションです。その目的は、タンパク質の構造予測をするためのコンピューターモデルを独立して評価することでした。タンパク質は、アミノ酸が鎖状につながったもので、それが特定のかたち(3D構造)に折りたたまれることで機能を発揮します。この「どのように折りたたまれて3D構造をつくるか」を予測することは非常に難しく、「タンパク質折りたたみ問題」と呼ばれていました。
CASPは様々なモデルをコンテストの形式で評価することを可能にし、これが科学の進歩を促す原動力となったといえます。
CASPから注目をあつめた、ノベール賞を受賞したあのAI
CASPでその機能が評価され、世界中から注目されることとなったタンパク質構造予測AIとしては、AlphaFoldの存在は見逃せません。
2020年のCASP14では、Google DeepMindのAlphaFoldが登場し、構造予測の精度が劇的に向上しました。Alphafoldを開発した研究者は、2024年にはノーベル化学賞を受賞しています。
まさかの「資金切れ」?!消滅の危機に瀕するCASP
しかし、この重要なコンテストが今、存続の危機に直面してるそうです。
- NIHからの資金枯渇:CASPは、米国国立衛生研究所(NIH)からの資金が底をつき、プログラムを監督するカリフォルニア大学デイビス校からの緊急支援も8月8日に枯渇するようです。
- 運営責任者の解雇通知:カリフォルニア大学デイビス校は、プログラムを運営する2人の研究者、クリストフ・フィデリス氏(ディレクター)とアンドリー・クリシュタフォビッチ氏(プロジェクトサイエンティスト)に、数週間で職がなくなることを伝えたそうです。
- NIHの沈黙:CASPの主催者は昨年、80万ドルの助成金更新を申請しましたが、NIH当局はプログラムの将来について何の保証も示していないようです。
CASPは、209のモデリンググループが参加し、何百もの実験グループ、競争の焦点を決定するパネル、評価者、そして成果発表と教訓共有のための会議など、ネットワークが形成されているとされています。Scienceの記事では、もしプログラムが終了し、このボランティアのネットワークが解散すれば、「再構築は容易ではないだろう」というコメントが出ています。
今後の展望
Scienceの記事によると、主催者たちはまだ、CASPの助成金が更新されることに望みを抱いていると書かれています。CASP共同設立者のモールト氏らは、代替の資金源を求めて、財団や他国に働きかけているとのことです。また、カリフォルニア大学デイビス校は、資金が見つからない場合に備えて、CASPのコンピューターサーバーをアーカイブできるかどうかも検討しており、これまでの数十年にわたる貴重なリソースが失われないように努めるそうです。
アメリカがCASPにおいて大きな役割を示してきたことを明らかにするとともに、CASPが今後存続がどのようになるか目が離せません。